自作リトクレヨン:意義と制作方法(工房向け実践ガイド)
アルミホイル転写など非吸収面に最適化した自作レシピと実験ノート付き。安全・低コストで試せる手順を掲載。
導入 — なぜ自作するのか(意義)
リトグラフクレヨンは伝統的に海外製品に依存してきた専門画材です。工房で自作する意義は大きく分けて三つあります:
- 技術継承と表現の自由性:配合を自分でコントロールすることで、版と支持体に合わせた最適な描き味を得られます。
- 経済性と供給安定性:輸入遅延や欠品に左右されず、小ロットで試作し改良できます。
- 新技法の創出:アルミ、ガラス、フィルムなど非吸収面に特化した配合で、新しい版表現(例:アルミリトグラフ)を開拓できます。
安全上の注意(必読)
重要: 自作には加熱作業・粉体扱い・可燃性物質の使用が伴います。必ず換気の良い場所で行い、マスク、耐熱手袋、ゴーグルを着用してください。タール系原料は発がん性リスクがあるため、可能なら松ヤニや食品グレードの代替品を用いることを推奨します。
材料と費用(家庭向け・目安)
材料 | 役割 | 購入先・参考価格 |
---|---|---|
蜜蝋(ビーズワックス) | 滑り・粘りの基材 | Amazon / 東急ハンズ — 約1,000円 / 100g |
モンタンワックス(またはパラフィン) | 硬度調整 | 画材通販 — 約800円 / 100g |
松ヤニ(コロホニウム) | 密着性(タール代替) | 楽天 / Amazon — 約700円 / 100g |
カーボンブラック(顔料) | 着色・トーン | 画材店 — 約500円 / 20g |
石鹸(オリーブ石鹸など) | 乳化剤・転写性調整 | ドラッグストア — 約200円 / 個 |
ストーンパウダー(軽石粉や酸化アルミ微粉) | アルミ面向けの粒子添加 | 工芸材料店 / ネット — 約800円 / 100g |
上記は参考価格です。初回は小ロット(10本分)を想定すると1本あたりおよそ50〜150円で作れます(材料と成形法による)。
基本的なレシピ(試作 10本分・目安)
下は家庭で試しやすい「軟質 / 中間 / 硬質」の3種の配合例。温度は80〜90℃の湯煎で溶かし、ストローやシリコン型で成形します。
軟質タイプ(アルミで深めに写る)
蜜蝋:20g 松ヤニ:15g 石鹸:2g オリーブ油:1g カーボン:0.5〜1g 混合→湯煎→型入れ→冷却
中間タイプ(汎用)
蜜蝋:15g モンタンワックス:10g 松ヤニ:10g 石鹸:2g カーボン:1g
硬質タイプ(細線向け・アルミ向けは微粉添加推奨)
モンタンワックス:20g 蜜蝋:10g 松ヤニ:5g 石鹸:1〜2g カーボン:1g ストーンパウダー:1〜2g(アルミ特化時)
冷却は室温でもよいが、急冷はひび割れの原因になる。固化後は紙で巻いて保護すると折れにくくなる。
作り方(ステップ・詳細)
- 下準備:換気、保護具、秤(0.1g単位推奨)、耐熱容器、シリンジ或いはスポイト、ストロー/シリコンモールドを用意。
- 溶解:耐熱容器で蜜蝋等を湯煎で徐々に溶かす(目標 80〜90℃)。直接火にかけない。
- 混合:顔料→松ヤニ→石鹸の順で入れ、よく攪拌する。均一化のため3ロールまたはゴムヘラでよく練る。
- 成形:シリンジでストローに充填。垂直に立てて冷却するとまっすぐ固まる。シリコンモールドも可。
- 冷却・乾燥:室温で1時間、完全硬化させる。急冷は避ける。成形後、表面をネルや柔らかい布で軽く拭く(油膜調整)。
- 仕上げ:ストローを縦に切って抜き、紙巻きにする。必要なら紙ヤスリで先端を整える。
アルミホイル特化の追加テクニック
- ストーンパウダー(軽石粉、酸化アルミ微粉)を1〜3%程度混ぜると、アルミ面での咬みが良くなる。
- 描いた直後に柔らかいネルで軽く表面を撫でると油膜が薄くなり転写が安定する。
- 転写は強圧より軽擦(kiss pressure)を複数回行う方が滲みを抑えられる。
試作ノート(実験テンプレート)
以下のテンプレートをコピペして実験記録に使ってください。
日付: レシピ名: 配合(g): ・蜜蝋: ・モンタンワックス: ・松ヤニ: ・石鹸: ・顔料: ・微粉(ストーン): 湯煎温度: 成形方法: 冷却法: 描き味(1-10): 転写性(1-10): 滲み度(1-10): 備考(アルミの下処理・転圧回数等): 結果: 改良点:
よくあるトラブルと対処
現象 | 原因(推定) | 対処 |
---|---|---|
線がにじむ | 油分過多・転圧が強すぎる | 冷却して硬度を上げる、石粉を増やす、擦り圧を下げる |
線が途切れる | 油分不足・顔料の密度不足 | 松ヤニやオイルを少量追加、蜜蝋を減らす |
芯が割れる | 急冷・ワックス比が高い | 徐冷する、紙巻きで強度を確保 |
表面がベタつく | オイル過多・仕上げ不足 | 表面を布で拭く、ワックス比を増やす |
まとめと今後の展望
自作リトクレヨンは「材料科学」と「職人技」の融合です。小ロットでの試作を繰り返すことで、アルミやその他の非吸収支持体に最適化された新しい表現領域が開けます。工房を持つあなたなら、試作・教育・販売まで含めたプロジェクト化が現実的です。
この記事は実験的ノウハウを共有する目的で作成されています。商用化する際は安全性と規制(材料の MSDS)を必ず確認してください。